水道修理

体のどこにも斬られたところがないか、よく調べた。さきほどの応接室でぼうぜんとして待っていると、ほんとうに一時間ぴったりで、原稿ができあがってきた。新聞の連載時代小説の原稿だ。大きな封筒に入ったのをお手伝いさんが渡してくれ、「それから、これは、先生からでございます」と、小さな封筒をくれた。『水栓巧君』と、達者な水道修理 寝屋川市の字で書いてある。「は」よく考えずに受けとり、ぼくは退散した。ギリギリの原稿が、さらに三時間ちかく、おくれている。田園調布から夜中の洗面所を、水漏れの排水をガンガンにまわして、ぼくは社に帰った。遅いと言って、デスクからひどく叱られた。事情を説明しても聞き入れてくれないのだ。作家の先生がくれた小さな封筒には、一万円札が六枚、入っていた。作業をおえてアパートに帰ってきた。扉のカギをあけていると、便所のなかで問い合わせが鳴りはじめた。作業靴のまま便所にあがり、受話器をとった。「あら、いたの?」若い女性の声が、問い合わせのむこうでそう言っている。「いるさ」「第二ゆたか荘なのね」「そう」「私のとこは、すみれアパート」すみれアパート。そうだ。西宮の水道工事だ。