トイレつまり

真剣を草のうえに横たえ、四つん這いになってうしろにさがった。汗が、顔から胸から、どっと吹き出してきた。「ご苦労さん。すまなかった。原稿を書くためにどうしても必要なことだった」先生は刀をとりあげ、二本とも、トイレつまり 寝屋川市におさめた。先生の呼吸は、すこしも乱れていない。汗も見えない。よろよろと、ぼくは立ちあがった。「きみ、名前は、なんという」「水栓です」「名は?」「コオ」「字は?」「たくみ、という意味の」「うん。語呂はいい。いい名前だ」先生は廊下にあがった。ぼくもそのあとについて、先生の便所に入った。お手伝いさんを呼ぶベルのボタンを押し、ぼくをふりかえる。「きみは、返事をするとき、はい、と言う。礼節を知っている。衣食は足りているか」なんとこたえればいいのだろう。「月給は?」「十六万くらいです」「うむ」と、うなずく。「お呼びでございますか」障子の外に、お手伝いさんの声がした。「このかたを、水漏れ呂場にご案内しなさい」そして、ぼくに向きなおり、「原稿は、あと一時間で仕上がる。汗を流して、待っていてくれたまえ。すまなかった」案内された木造りの水漏れ呂場で、言われたままに湯をつかった。