水漏れ

どうしていいのかわからないので、ぼくは、突っ立っていた。先生が顔をあげ、ぼくをじっと見る。「うーむ。二十四歳、育ちは大阪に近い、水漏れ 守口市か静岡か」「神奈川です」先生は、うなずく。「年は?」「当たりました」「よろしい」白いもののまじったオールバック。鼻の頭が赤い。酒とのつきあいは、ながそうだ。無精ひげ。銀ぶちの眼鏡の奥で、二重まぶたの目が意外にやさしい。厚い唇に、微笑ごうかんでいる。「じつは、頼みごとがある」「はい」「靴下を脱いでくれたまえ」「は」「庭へ出てほしい。私といっしょに」先生は、立ちあがった。背だけはぼくとおなじくらい。くすんだ色の、しわのよった和服だ。床の間のようなところへいき、立てかけてあった二本の日本刀をつかんだ。「こっちだ」ガラスのはまった障子をあけると、廊下。その廊下のガラス戸の外が、中庭だった。きれいな芝生に、白銀灯が光を注いでいる。飛び石が、コーナーを描いて山のむこうに消えている。池や植え込みが見える。日本刀の鞘を二本とも払った。光をうけて、冷たく銀色に、ぎらりと光る。真剣だろうか。不気味な光りかただ。「白刃だ。人が斬れる」と、先生が言った。